研究領域

21世紀における初等教育から高等教育、さらには生涯教育までをも含めた、学習環境をデザインする際のデザイン原則を導出することを目的として研究しています。学習環境デザインの取組みと結果について、その過程を含め、学習の共同性と社会性の観点から明らかにしていこうと取り組んでいます。具体的な学習環境をデザインし、実践し、改良しながらその成果を過程も含めて公表し、社会に対して積極的にはたらきかけを行っていくことも重要な役割だと考えています。これまで教育・学習研究ではあまり扱われてこなかった大学の学生や教職員、企業や市民活動における成人の学習、特に科学技術に関わる内容を扱っています。

デジタル化が新たなステージを迎え、社会への影響を大きく変化させる、DXの時代において、また特に人口減少・高齢化が急速に進む日本において、私が「LX(ラーニングトランスフォーメーション)」とよぶ学習の変革は、喫緊の課題となりつつあります。持続可能な社会を実現するためには、幅広い年代の人々が、問題解決力や応用力などの高次な認知能力を身につける必要があると考えます。そのためには、学校教育だけでなく、職場での研修や、地域活動、また家庭内においてもLXを促進する学習モデルと、その普及に向けたフレームワークが必要です。科学的に実証された学習法に基づき、多様な年代の人々を学習主体としてとらえ、学習の場を拡張した学習モデルと、学習者が自らの学びを調整し、生涯を通じて成長していく、学習環境のフレームワークのデザインです。

キーワード

デザイン

狭義にはモノの望ましい機能や新しい形状を創造する行為のことです。これからの社会では、狭義のデザインの適用範囲を、モノからコトにまで広げた、新しい仕組みを創造する行為という広義の「デザイン」が重要です。

学習環境のデザイン

学習環境のデザインとは、目的、対象、要因、学習に至るまでの過程などを意識した活動です。そこに関わる人々の活動を物理的環境も含めて組織化し、実践しながら、振り返り、位置付け、修正していくという、構成的で、循環的な、環境に開いた学習環境を創造する行為です。

学習の共同性と学習の社会性

学習の共同性とは、二人以上の人間が、協調的に活動することによって、学習者自身が自分で自身の知識を構成しやすくするだけでなく、また他者の考え方との相互作用や吟味を通して、自身の知識を再構築するきっかけにも恵まれ、理解が深化するという学習の特性です。

学習の社会性とは、学習の状況依存性から始まった学習を説明する一連の流れ、学習目的の真正性あるいは機能性、社会的に提供される学習支援などを包括する特性を指します。すなわち、学習は社会的に意味のある真正な活動の中で動機づけられ、周辺的参加から段々と十全的参加となる参加の過程として見直せるというものです。

学習の共同性や学習の社会性と、従来の「協調学習」や「学習の真正性」との相違は、学習者を取り巻く、より大きな、多様な、共同体や文化、社会との関係をも含んだものとして拡張した点にあります。

科学技術リテラシー

科学技術に支えられた現代社会でかしこく生きるために必要な、科学技術に関する「最少限」のknowledgeのことをいいます。科学的素養ともいわれます。knowledgeとは、知識だけでなく、それを理解し、活用することまで含んでいます。

科学コミュニケーション

国民全体あるいは個々のコミュニティの科学的知識や科学に対する意識を高めるための活動のことです。コミュニケートする内容は、以下のようなものがあります。

  • 科学技術に関する知識や方策
  • 科学することのおもしろさ
  • 科学的なものの見方、考え方
  • 科学技術に関する研究・開発成果、知識
  • 科学技術の社会的、経済的、法的、倫理的な影響
  • 科学技術に関する政策、方針など

科学フェスティバル

人を介した科学コミュニケーション手法のひとつで、時間と場所を集中し、魅力のある、最先端の、辛口なものまで扱います。開催の目的には、以下のものが含まれます。

  • 科学を文化の一部として楽しむ場をつくる(映画祭、野外劇など)
  • 科学と縁遠い人たち(科学館などに足を運ばない)に接近する
  • 本物の経験を与える(科学者を外に出す)
  • 政策的あるいは論議をよぶ状況に取り組む

開催場所は、科学にとって普通ではない場所、学校、大学、研究所などではない所、すなわち、駅、ショッピングモール、テント、公園、海辺、美術館などの公共空間です。対象は、子どもからお年寄りまで、素人から専門家までです。

自己調整学習

自己調整学習(self-regulation of learning)とは、1990年代よりB. J. ジマーマンらが提唱し始め、学習者自身の主体的で自立的な取り組みが学習の鍵であるとする理論で、現在初等教育から高等教育に至るまで、数多くの研究と実践がなされています。学習者が自らの目標を達成するために、体系的に方向づけられた認知、感情、行動を自ら活性化し、維持する諸過程のことで、3要素(動機づけ、学習方略、メタ認知)と3段階(予見段階、遂行段階、省察段階)から成り立っています。

共調整学習

自己調整学習では、個人がおかれている環境や、そこでの課題に適応し、自ら課題を見つけ、自ら学び続けることのできる自律した学習者となることを目標としています。この自己調整の先には、共調整学習(co-regulation of learning)という考え方があります。学習を一人の活動とせず、複数の中で、互いに影響しながら調整を行っていくことで、さらに学びが促進されるというものです。

社会的に共有された調整学習

これまで学校教育では、個人が課題を解き、個人で成果を上げることが第一の目標として考えられ、実践されてきました。しかしながら21世紀の社会においては、共同で作業することや協働的に解決すべき課題が出現し、共通の成果や結果が求められるようになりました。このような社会的な変化の中で、個別的な適応と調整能力の媒介する共調整学習という方考えから、社会的に共有された調整学習(socially shared regulation of learning)に発展してきました。課題に関わる人々が共通の認識を持ち、解決に向かうプロセスにおいては、経験したエピソードなどが語られ、共同的モニタリングや共同的コントロールが起こり、知識や信念などが共有され、新たなものが共同的に構築されていきます。社会で起きている課題の解決に向け、共同で活動していく機会が増す中で、社会的に共有された調整学習が注目されています。